暴力や強姦という極めて非人道的な文化が蔓延していた時代の話である。
スタンリー・キューブリックは、モラルのない若者、そしてそれらを生み出した国に対してユーモアに風刺している作品だ。
ルドビコ治療をすれば刑務所を出られるという誘惑
アレックス(マルコム・マクダウェル)は投獄されたあと、監獄の中で「ルドビコ治療」という実験の被験者になれば、釈放されるという話をきく。
ある時、アレックスは被験者を決めるためん訪れた国の大臣に、自ら被験者にしてもらえるようにアピールをした。
快活だったアレックスを大臣は気に入り、見事被験者に任命?され、実験のための病院で暮らすこととなった。
ルドビコ治療の主治医であるブロドスキー博士は、アレックスの頭に変な装置を取りつけ、ある映像を鑑賞させ続けた。
こんな感じだ。
ある映像というのは、「暴力」と「強姦」の映像だったのだ。
目をピンセットみたいな機械で瞬きすらできないようにされ、体も縛られて実験を受けるアレックス。
はじめは、アレックス自身が暴力や強姦を行なっていたため、観るのに何も感じなかったが、しだいに吐き気をもよおすようになる。
なぜだか知らないうちに暴力と強姦を見続けることが苦しくなってきた。
それは、体の中から湧き上がる、規範みたいなものが暴力と強姦を「ひどいものだ」という認識にさせているのだった。
「もうやめてくれ!」と叫ぶアレックス。
「いや、やめるわけにはいかない。もう少し我慢してくれ」と実験を続けるブロドスキー。
このシーンはなかなかシュールなものだった。
ルドビコ実験で映像中に流れていた音楽はベートーベンの第九だった。
「暴力」と「強姦」の他に、ベートーベンの第九を聴くと吐き気をもよおす体になってしまったのであった。
1日目が終わったアレックスは気分が良くなるまで病院のベットで休むことに。
気分が良くなってきたら看護師から聞いた言葉は、
「良くなったらあと2週間毎日2〜3回ほどこの実験をつづける」と言われる。
釈放のためとはいえ、信じられいない様子のアレックスだった。
ルドビコ治療の結果報告。壇上で吐き気まみれのアレックス
ルドビコ治療を終えたアレックスは元気な姿で戻ってきた。
刑務所を出る前に、被験者の状態をプレゼンする舞台の前に立たされる。
アレックスは舞台の上に。
舞台の客席には、刑務所のメンバーや大臣、看守のバーンズなど複数の人数がいる。
アレックスが立っていると、後ろから急に男が急にアレックスを殴り出す。
殴って靴を舐めるようにいうのだった。
捕まる前のアレックスであれば、反抗し、殴るのであろうが、
ルドビコ治療のおかげで吐き気をもよおすしたのだ。
暴力男の次は、裸の女が現れる。
裸の女は、私に「インアウトしてよ」と誘いをかけるが、アレックスはルドビコ治療のおかげで吐き気を催してしまうのであった。
もう、暴力も強姦もできない体になってしまったのだった。
いざ釈放、現実の世界で、アレックスは幸せに生きられるのか
釈放されたアレックスは、家に帰ってきた。
アレックスが家にいない間、家族は悲しみ、そしてアレックスが釈放したことも新聞沙汰になっていたのだ。
「女を殺した若者が治療を受けて釈放された」と。
帰ってきたアレックスの家には、別の男が一緒に住んでいた。
アレックスの居場所はなかった。
居場所がなかったアレックスは、家を出ていく。
そして家を出ると、以前、酒で泥酔いしていた爺さんを殴ったことのあるホームレスに出会う。
ホームレスは殴られた記憶を思い出し、アレックスをボコボコにする。
反撃したかったが吐き気をもよおすアレックスは何もできない。
ホームレスに殴られるのを止めたのは警察だったが、その警察はまさかのディムとジョージーだった。
今までドルーグとして一緒に騒ぎを起こしていたディムとジョージーは、成人し、警察となっていた。
今まで散々こき使われていたディムとジョージーは、アレックスを山林に連れていき、泥水に顔を沈める。
死ぬ直前まで散々痛めつけられたアレックスは、山林の奥にある家に助けを求める。
助けを求めた家は、昔、強姦をした作家の家だったのだ。
作家は思い出した。あの時の小僧だと。
作家はアレックスに睡眠薬を飲ませ、ある家に閉じ込めたのだった。
目が覚めたアレックスは、なぜか吐き気をもよおす。
なぜなら、その部屋は鍵で閉ざされた2階で1階から、ベートーベンの第九がかかっていたのだ。
作家の恨みによるものだった。
ルドビコ実験によって、第九を聴くと吐き気がもよおすアレックスは、部屋から脱出するために2階の窓から飛び降りたのだった。
アレックスの完全なる更生
2階から飛び降りたアレックスは全身骨折の重症をおい、病院のベッドにいた。
治療を続けていたアレックスの元に、ある日一人の男がやってくる。
一人の男は、ルドビコ実験を推進していた大臣だったのだ。
このルドビコ実験は、アレックスのような犯罪者を更生させることで有名だったが、反対勢力からは「選択権がない」などと批判の的だった。
権力を失いたくなかった大臣は、アレックスに呼びかけて、大臣と一緒に活動をする誘いをかける。
「私に協力してくれれば、職もお金も不自由させない」というのだ。
アレックスは釈放させてくれた大臣への恩と、まともな仕事について生活するために快諾したのであった。
とても賛否両論のある作品だが、暴力と強姦がまかり通る世の中を、スタンリー・キューブリックは忌み嫌っていたのではなかろうか。
また理不尽なとをしてきたアレックスは、家族、ドルーグの仲間、作家と全ての人から仕返しを受ける。
これもまた、自然の法則というか、相手に恨みを買えば、後になって返ってくるということの裏返しではなかろうか。